【トーク】アーカイブの活用〜RPSアーティストブックフェア〜

3月22日(月)、東京・曳舟のRPSにて行われているアーティストブックフェアにおいて、「アーカイブの活用」をテーマにトークを行わせていただきました。

制作中の写真集「A flower on the rock」を元にお話しさせていただきました。「パーソナルな視点」に引き続き、今回のトークの内容を、簡単にですが残しておきたいと思います。写真集の内容については、あらかじめリンクからご覧ください。

【アーカイブを活用することについて】

 今回の写真集では、過去のアルバムの写真や、父が書いた日記なども本に組み込んでいます。こうしたアーカイブの活用は、特に私のような人生丸ごとを扱うような作品を作る上で有効だと考えています。

 当然のことですが、今現在の時点から過去それ自体を撮影することは不可能です。過去を再現するような写真を撮るという手段もありますが、特にそれなり以上に昔の話を扱う場合、当時の雰囲気丸ごとという点では、ファウンドフォトを活用するのが良いのではないかと考えます。これは、個人の人生のリアリティーを作品に反映させる上でも有効だと感じます。

【実際に使用したアーカイブ】

 私が実際に使用したアーカイブや資料について、ご紹介します。

 まずはアルバムです。現役時代のものから、現在に至るまで、写真が多数残っていましたので、アルバムを何度も見返しながら、必要な写真をセレクトしています。

 その際、必ずしも画的に美しいものを選ぶ必要はなく、写真集全体の流れの中で必要なものを選びます。「意味のある写真」であれば、必ずしも「美しい」ものである必要はないと考えています。一見使えないと思えるような写真が、ストーリーを構成する上で重要な役割を果たすこともあります。

 次に、新聞記事です。これも父がかつて保存していたものが中心です。

 この作品の場合は、力士としての過去の経験がベースにあるものですので、これに関する地元の新聞記事を活用しています。記事の使用許可については、青森県のデーリー東北新聞社様、東奥日報社様からそれぞれ許可をいただいています。

 新聞記事を使用することで、当時の時代性を反映させたり、写真だけでは表現できないような過去の客観性のようなものを写真集に加えることが可能になると感じています。当然ながら、写真集の内容的な厚みを増すためにも効果的だと感じます。

 これまでに書かれた日記も利用しています。ワークショップに参加した時点では、日記は入っておらず、ヒアリングして聞き取った内容をベースに写真とその他の資料のみを使用していました。

 そもそも日記というのは、誰かに見せることを前提として書いているものですから、それを他人である自分が覗き見るということはすべきではないと考えていました。ただ、ワークショップ終了間際のタイミングで、一度日記も使ってみるべきとのお話をいただき、挑戦してみた形です。

 自分の場合、父に相談し、例えば「入門したタイミングで喜んでいる日記」「入院したタイミングの日記」といった形である程度自分が使いたいと思われる場面を限定するとともに、「稽古が辛かった」「今日は調子が良くて嬉しかった」といった類の喜怒哀楽が現れている日記のページを見せて欲しいと頼み、了承を得ました。

 アーカイブではないのかもしれませんが、力士だった頃、それに料理を学び店を開いた当時の資料も活用しました。分かりやすいものでいえば、今も家に保存されているちょんまげや、入門当時の力士検査合格証、それに料理修行中のノート、店を開いていた頃ののれんなどです。

 これらについては、スキャンをしたり私が撮影したりしていますが、アーカイブの活用に近しいのではないかと思いましたので、ご紹介します。

 こういった資料もうまく使えば、過去の状況を物語る上で有効だと考えています。ただ、この本の構成を考えていく上で、当初は前半の力士だった頃のパートに組み込んでいたのですが、結果として最終盤の現代パートで過去を振り返るためのツールとして活用することとしています。

 アーカイブ写真と組み合わせた使い方もありますが、特に自分で撮影した資料については、あくまでも今撮ったものなので、使い方の選択肢として、必ずしも過去を表すものとして使用しなくても使うことができるのではないかと感じています。

【アーカイブを使うことに対する抵抗感について】

 アーカイブの活用について、正直に言えば、私の場合、当初自分自身が撮影した写真を多く入れる構成でダミーを作り始めました。

 単純にアーカイブの使い方が分からなかったということもあるのですが、自分の場合もともとアートの世界から写真を撮っているというよりも、海外をバックパッカーしている中で、良い写真を撮りたい、そこから作品を作っていきたいという流れで写真に取り組み始めたので、自分が撮影したわけでもないものを大量に使っていくことに抵抗感がありました。

 多分、「自分が撮影したわけでもない写真を多量に使った写真集が、本当に自分の作品なのだろうか?」といった気持ちもあったのだろうと思います。

 結局今はアーカイブを大量に使った作品になっているのですが、自分の中でどのように整理をしたのかというと「表現したいコンセプトをよりよく実現できるのであれば、そのためのベストの方法を探るべき」「一度挑戦してみて納得がいかないのであれば、違う方法を探る」といった割り切りだったように思います。もちろん、今になって振り返ってみるとそういうことだったんじゃないか、ということなのですが。

 それに、自分が撮影した写真だけで作品を作りたいと思うのであれば、それはそれでやってみたら良いのだと思います。別に一度こういったアーカイブを活用した作品を作ったら、今後もずっとそれに縛られなければいけないわけではなく、常により良い手段を模索すれば良いということなのだと思います。

 ただ、この段階まで進めた今では、少なくとも一度は、作品を制作する際にアーカイブの活用を積極的に検討することが大切だと感じています。