【トーク】パーソナルな視点〜RPSアーティストブックフェア〜
3月21日(日)東京・曳舟のRPSにて行われているアーティストブックフェアにおいて、「パーソナルな視点」をテーマにトークを行わせていただきました。
私がお話したのは、制作中の写真集「A flower on the rock」について。今回のトークの内容を、簡単にですが残しておきたいと思います。写真集の内容については、あらかじめリンクからご覧ください。
【個人の人生を見つめた作品を作る意味】
まず、このように個人の人生を見つめることにどのような意味があるのかということを、あらためて考えてみました。
個人の人生を扱う作品を作る際に大切なのは、おそらく「個人の人生を通して何を見せたいのか」「何を表現していきたいのか」ということなのだろうと考えています。
個々の人生は非常に多様です。その多様性というのは、うまくいったこと、うまくいかなかったことなど様々な側面がありますが、その中のある部分に焦点を当ててみると、それは単に個人が経験したことというのみにとどまらず、私たち観る側が共感可能な点もあると思います。
そして、パーソナルな視点で作品を構成しようとした場合、やりようによっては、その個人の経験のうち、テーマ=核心とも言える部分に、深く入り込むことが可能となります。
今回の私の作品の場合、それが夢と挫折、その後の人生への向き合い方ということとなります。特に挫折というものが中核にありつつ、それとどう向き合うかというのは、何か一つの物事に対して真剣に取り組んだことがある人であれば、共感可能なものだと考えます。
このような、少なくとも一定規模の人間が共感可能なもの、自分の人生を考えさせられるような作品を作れるという意味で、パーソナルな視点から作品を作ることは、意味があるものだと考えています。
【パーソナルな視点から作品を作る上で気をつけたこと】
パーソナルな視点から作品を作る上で特に大切だと感じたのは、個人の人生を通してどのようなことを表現したいのかというテーマ性と、人の人生を扱うに当たって丁寧な流れを作っていくことでした。
この作品は、Photobook as objectというこのRPSギャラリーで開催されているワークショップで、その試作版とも言えるものの製作に取り組みました。
私の場合、初めての写真集作りということで、まず何から手をつければ良いのかも分かりませんでした。当初からアーカイブ写真を使用していくことは決めていたのですが、ワークショップの現場に家族アルバムを持ち込み、そこからどの写真を、どこでどのように展開させていくかを考えました。
とにかく試行錯誤の繰り返しなのですが、当初特にうまくいかなかったのが、ページをめくっていった時の滑らかさのようなものでした。
今、滑らかさと表現しましたが、パーソナルな視点という観点から言えば、その人の人生を丁寧に追えていなかったということだと思っています。
先ほどお話ししたような夢や挫折、その後の人生における気持ちのありようといった目には見えない抽象度の高いものを表現するためには、ページをめくるたびに少しずつ時が流れているかのような、丁寧な表現を心がけることが重要でした。
そして、ビジュアルイメージについても、一見地味に見えるものや、ただ1枚の写真としては使いにくいものであったとしても、そうした微妙な変化を表現していく上では、大変有効に機能することがあるということを感じました。
【パーソナルな視点からの作品を作る上でのアーカイブ活用】
今回の本では、過去のアルバムの写真や、父が書いた日記なども本に組み込んでいます。私のような人生丸ごとを扱うような作品を作る上では、アーカイブの活用は非常に重要な要素を占めています。
当然のことですが、今現在の時点から過去それ自体を撮影することは不可能です。その点、個人の人生のリアリティーを作品に反映させる上でも、こうしたアーカイブや資料の活用は有用でした。
このように、私のようなパーソナルな視点からの作品作りというのも、アーカイブや資料を適切に用いながら作っていくことで、人の人生から感じられるものやテーマを表現することもできるのではないか、と考えています。